高橋是清

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歴史を俯瞰できるのは後世の人間の特権でもありますが、逆に言えばああすべきだった、こうだったなどと言っても後の祭り、歴史上で起こった事は全て未来に生かされるべきだというのが私の持論です。
例えば昨今、世を賑わせている中国などは全国統一できた王朝だけでも20近くあります。大抵、前の王朝の皇帝は暗愚で家臣のいいなり、その上辺境民族からの侵略があったりして民衆や家臣が一斉蜂起して簒奪するというのが一般的。これを20回も繰り返しているのは学習能力がないのではないかとすら思うことしばしば。今の共産党政権も歴代王朝の体たらくと一体何が違うのか、正直に言うと違いを見つけるのが難しい。私は中国史マニアですが、それだけに今の中国のやり方には憤慨しています。そういう日本人は多いと思います。

日本の場合はそこまで酷い繰り返しはありませんが、やはり武家政治が長かったせいか、世界的に見ればかなりバランスが良いようには思いますが、やはり武断政治による負の遺産が少なくない。
私は以前、江戸時代の経済や明治時代の経済について幾つか読んだことがありますが、今回はじめて、戦前においては最も優れた経済官僚、高橋是清の生涯を綴った本を読みました。今までは名前を概略しか知り得ませんでしたができることなら今の日本にこそ必要な人のように思います。

日露戦争で膨大な戦時国債をあろうことか欧米に販売することができた功績は大変大きい。当時、欧米では今ほど日本については知られていませんでした。アジアの新興国の1つ、ちょっと名が知られた程度です。そんな海の物とも山の物とも分からぬ国の国債を良く買ってくれたものだと今でも驚きは隠せませんが、この高橋是清の活躍あって政府の無茶な要求にも応えることができました。新興国ごときがあの大英帝国と同盟を結んだり、国家予算の数年分の国債が売りさばけたりと、明治時代人の真骨頂が垣間見えます。

江戸時代末期の経済が行き詰まってきたのも、日露戦争後の経済が行き詰まっていたのも、私が見るに日本にはあまり世界経済に詳しい人材がいなかったからのように思います。日露戦争後から世界大恐慌までの高橋是清の活躍振りはまさに神業の手腕でした。彼だからこそあの程度に収められました。彼がいなかったら日本は経済破綻を起こしていました。そして2.26事件で暗殺されてから大東亜戦争で近代史上類をみない大敗を喫した日本を見ると、起こるべくして起こった気もします。明治時代の軍人に比べて昭和の軍人のレベルの低さには目を覆うばかりです。特に士官。明治時代の上級士官と比べると本当に同じ大日本帝国軍人なのかと疑いたくなります。精神的には立派でも、近代戦争ではそれ以上に求められるものがあります。世界を高いところから俯瞰できる能力。その分やにおけるエキスパート、バランス感覚。柔軟な発想と応用力。精神力や愛国心というのは神社やお寺の御守のような作用以上には求めてはいけないものだと思います。

明治時代は軍人や政治家、財界、文壇と、多方面に優れた人材がきら星のようにいた、大変興味深い時代だと私は思っています。


平成二十七年神無月二十三日
不動庵 碧洲齋